「僕は本気なんです。でもこの気持ちをどうしたらいいか、分からないんです」

だけど、消したくもないんです。

同級生に恋をしてその気持ちを素直にぶつけたら動揺した相手に殴られ頬を腫らせた下級生を治療しながら、 適当に相づちをうつ。どうしたらいいか分からない、でも消したくない。 この下級生の気持ちを、相手は一体どんな顔して聞いたのだろう。どんな思いで拳をふるったのだろう。 いま、どうしているんだろう。下級生が顔を歪めて薄く笑った。

「善法寺先輩」

「うん」

「どうしたら、いいでしょうね」

「隠してしまうことだよ」

「隠す?」

「うん。だって君は、仮にも忍びの卵でしょう」

「そ、れは」

「隠していれば、いつか忘れる」

「忘れる」

「そう」

下級生は部屋から出ていく時、振り返らずに言った。
僕には、忘れてしまえるものではないのです。

コーちゃんを抱き締める。乾いた歯に口づけて、口を開かせ、空っぽの頭蓋骨の中に言葉を吐き出す。

「留、留三郎、好きだ、好きだよ、とめさぶろう、すきだ」

唇を離すと、コーちゃんの歯と歯はカチンと音をたてて閉じられた。
コーちゃんの中に吐き出した気持ちはやがてこの空っぽの身体の中に行き渡る。 私の留三郎への気持ちでいっぱいになる。

「あぁ愛おしいな、コーちゃん」

隠した気持ちはやがて消える。コーちゃんに吸収されて、消滅する。
忍ばせた 恋 が漏れ出ないように、ぎゅうと抱き締めた。
コーちゃんは冷たく、私の欲しい温もりを返してくれることはなかった。



『忍』
08/11/24