小屋の隅で孫兵が膝を抱えて座っている。 もう半刻もそうしているので、さすがに声をかけると孫兵は想像していたよりずっと明るい声で、 卵を温めているんです、と言った。 見ると孫兵は一つの白くて小さな卵を潰さないように大事に抱えていた。朝カメ吉が産んだ、無精卵だった。

「分かっているんです。分かっています。でも、」

こうしていると今にも命が宿りそうで、愛おしいんです。

幸せそうにそう言う孫兵はこの世の者とは思えない程に美しかった。 膝元に布をかけてやって、自分も同じように卵を抱く孫兵の腹部に掌を重ねた。

「おれは、そんなことを言うお前が愛おしい」

その卵から産まれ出でるのはきっとお前の 愛 だよ。



『たまご』
08/12/1