「薬ってさ、湧き水じゃないんだよ。包帯だって限りがあるの、知ってる?」

留さんの背中の傷を消毒しながら、嫌味を込めて言ってやる。自然と治療する手が荒々しくなった。

「こいつが悪い」

「違う、お前が悪い」

「文次郎、鼻血垂れてるって。本当に2人とも、いい加減にしてくれるかな」

何度怒っても、何度治療しても、喧嘩をして、傷をつくって。その度に私は苛々するのだ。 だってほら、言うじゃないか。喧嘩するほど仲がいい、って。

「留三郎、てめえ!」

「なんだと、文次郎!」

嗚呼、本当に、苛々する。あんまり苛々したものだから、 留さんの背中に浮いた肩胛骨の、ちょうど文次郎に殴られて痛々しく痣になっている場所に思いきり噛み付いてやった。 留さんは痛みに甲高い悲鳴を上げた。ああ、やっと少し気持ちがすっとした。

「ごめんよ留さん、つい、もいでやろうかと思って」

「……もぐって、おい……」

舌に血の味を感じる。突然の私の行動に目を丸くして口をぱくぱくさせている文次郎に、 その舌をべろりと出して見せつけた。 留さんがこっちに背中を向けて痛がっているのをしっかり確認してから、唇を動かす。 これはわたしのものだよ。文次郎の顔が笑えるほど引きつった。

「てめえ伊作っ、ちょ、ほんとっ、おま、いってえよ!」

「大丈夫、ちゃんと今の所も治療しとくから」

「…………、」

「文次郎、しっかり鼻おさえてないと、鼻血垂れるよ?」

顔を青くして呆然と私を見る文次郎を不思議そうに見ている留さんの白い肩胛骨。
そこに、痣の上に私の歯形がくっきりと残った。しばらくは消えないだろう。

( 飛んでいかれたら困るから、ね。 )



『翼』
08/12/10