「髪結いさんは、そうやって”あいびき”するんだ」

あの人との逢瀬をきり丸くんに見つかってしまった。
髪結い師の仕事の時に、こっそりと路地裏で( あの人は女装までして! ) 忍び逢っていたというのに。 ただでさえ町中ではなかなか会ってくれないあの人は、見つかってすぐ走り去ってしまった。
あの人の後ろ姿を見送りながらきり丸くんが無邪気に、きれいな人ですね、と言っている。 これで当分、また町では逢ってくれないだろう。あーあ。

「……どうしたの、その恰好」

「きょうは花売りのアルバイトだから」

きり丸くんは薄紅色の小袖を着て、色とりどりの花が入ったカゴを持っていた。

「ぼく、じゃましちゃった?」

可愛らしい少女の顔でこちらを覗き見る姿は、顔を真っ赤にして逃げてしまったあの人と同じくらい、とても可愛かった。

「いいんだ」

「でも」

「今はきり丸くんと居るから」

小さな身体をひょいと抱き上げると、途端に目を輝かせて、いやぁね今はきり子よ、と言って笑った。 抱き上げた身体は細く小さく、とても軽かった。

「タカ丸さん」

「なんだい、きり子ちゃん」

きり子ちゃんが、カゴから売り物の花を一輪取って僕の髪にさしてくれた。
その手は、大きさに似合わず、働き者の手をしている。

「お詫び」

そしてもう一輪。

「これはあの人に」

「いいのかい。これ、売り物だろう」

「いいのよ、きょうはもう店仕舞いだから」

「どうして?」

「だって、タカ丸さんがいるから」

そう言って、薄く紅をひいている唇で、大人の女性のように笑った。
それから僕が笑って、きり丸くん( 今は、きり子ちゃん。 )も笑った。
何だか楽しくなって、残りの花を全部買った。店に飾ればお客さんも喜ぶだろう。

きり丸くんから貰った一輪の花は押し花にして、明日、あの人にあげようと決めた。
台紙は何色がいいだろうね。あの人の小袖と同じ色がいいと思います。
そんなことを話しながら薄暗い路地裏を出た。



『路地裏』
08/12/13