■猫のような目をした子どもの場合。

お腹いっぱい食べることが、怖い。満腹になってしまえば、もっと苦しくなることを知っているから。 腹いっぱい食べてしまうとまた次に空腹になった時に、前よりずっと苦しくなるから。 満腹を知らなければ大丈夫。これ以上、餓えに苦しむことはない。慣れているから。我慢出来る。

「きり丸、ほら、もっと食べなさい」

「そうだよ、きりちゃん、これあげるよ」

「これ美味しいよ、きりまる」

きり丸、きりちゃん、きりまる。優しい声で、おれを呼ぶ。
お腹いっぱい食べることが、怖い。だから、どんな時も腹八分目に、したいのに。
彼らはそれを許してくれない。おれが悲しむことも辛くなることも、許してくれない。

「美味いなぁ」

ご飯がとても美味しくて嬉しくて哀しくて、幸せで、何だかもう、泣いてしまいたい。



■猫のような唇をした少年の場合。

この学校に入学して、一人で食べるご飯の味を知った。いつものように温かくて美味しいのに、とても、寂しい。
美味しいから、誰かと分けあいたい。一緒に、美味しいねと笑って食べたい。

「だから、よく自分のおかずをくれるんですね」

「そんなことしてたらタカ丸さんの分がなくなってしまいます」

「みんな、自分の分がありますから」

分かっている。自分の考えが甘いことは。そんなことではこの世界では生きていけない。 だけど、あげたいのだ。教えたいのだ。知りたいのだ。一緒に、居たいのだ。

「じゃあこれと交換にしましょう、タカ丸さん」

「昨日頂いたおかずのお返しです、これも美味しいですよ」

「あ、違うよ、お返しが欲しかったわけじゃない。ただ、僕が、あげたかったんだよ」

「私たちもあげたいんです。タカ丸さんに。それとも、きんぴらはお嫌いでしたか?」

「……ううん」

僕よりずっとしっかりしていて強く優しい年下のきみたちのことが。とても。本当に。

「大好きだよ」



■猫に指を齧られた白骨の場合。

食べることもない。飲むこともない。話すこともない。動くこともない。
それらはもうずっと昔に止めてしまった。
いまはこうして静かに、

「ねえ、コーちゃん」

この隙間だらけの身体の中に、

「僕の----への思いは、いつ頃、いっぱいになりそうかな」

少年の秘めた恋を溜めている。

( ところで、例え私の身体がその思いで満ちても、思い人の姿になって歩き出したり彼の声で愛を囁いたりはしないのだと、 この少年は分かっているのだろうか。 )



ぼくらは愛を食んで生きている!



『ごはん』
09/1/17