部室で、あまりに暇だったのでちょうど目の前に座っていた古泉の手を取ってしげしげと観察してみた。 相変わらずの惨敗っぷりを披露してくれたカードゲームを片付けていた途中の手は、指先が少しひんやりしてた。 爪が綺麗だった。撫でると縦線が入っていることが分かった。 確か爪に縦線が入っているのは良くないと聞いた覚えがあったので(何故良くないのかは忘れた) その縦線を削るために爪をたてた。綺麗な手だった。
がちゃん、と音がした。朝比奈さんが湯飲みを机の上に落とした音だった。
朝比奈さんの他にも、ハルヒ、長門が目をいつもより開いてこちらを見ていた。
手の中から古泉の手がゆっくりと抜け出ていって、その手は肩の上まであがりそこで止まった。 それを目で追いかける。古泉も、目を大きくして口を固く引き結び、何ともいえない表情をしていた。

「朝比奈さん、湯飲み大丈夫ですか? お茶、こぼれました?」

「……あ!いいえ!大丈夫ですっ、空っぽで…あの、えぇっと……」

朝比奈さんの手から落ちた湯飲みは割れることなく俺の手元まで転がってきた。 拾い、渡すと朝比奈さんは何故だか涙ぐんでいた。
ハルヒはパソコンをいじる手を止めたまま、目をいつもより開いたまま、静かに瞬きを繰り返している。 長門は既に膝上の読み途中だった本へ目を戻していた。
現状を理解しようとしていた時。古泉の手が俺の手を掬い上げた。そしてその手を握り、肘を机に立て、そのまま――

「……ってえええええぇぇぇ!!」

ガァンッ!という音を聞いた時にはもう、俺の手の甲は机に叩き付けられていた。

「おや、カードゲームでは負けてしまいましたが腕相撲では勝てましたね」

机に俺の手を叩き付けた体勢のまま……握り潰すかのように強く手を握ったまま、 古泉はいつもとは違う、どこか歪んだ笑みを浮かべてそう言った。



『いざ勝負』
10/1/14