委員会の仕事を終えて部屋へ戻ると、しんべヱが泣いていた。
涙と鼻水と涎でしんべヱの顔は本当に凄いことになっていて、それをきり丸が観察するようにじぃと見ていた。 私は、本当はどうしたのって言いたいし言わなければいけないんだけど、それができなかった。 だってあんまりもしんべヱの顔は酷かったし、きり丸の目が、なんともいえないものだったから。

なあ、しんべヱ。きり丸がしんべヱの顔から目をそらさずに口を開いた。

「お前よくそんなに泣けるな。ずいぶん体の中に水をたくわえてるんだな」

「き、きりちゃん!」

窘めると、きり丸はやっとこちらを見て、何時も通りにおかえりって言った。

「でも、さすがにお前だってそろそろひからびちまうぞ」

しんべヱが涙と鼻水と涎に溺れながら、何かを言う。

「本当だって。涙って枯れるんだ。干乾びるんだよ。本当だぞ」

経験があるの、なんて聞けなかった。しんべヱも同じだったみたい。だってもっと泣いちゃった。
なあ、しんべヱ。きり丸が、しんべヱの顔を観察しながら首を横にかくりと倒した。

「おれ、お前が干乾びたら悲しいよ。それに涙だって無駄使いはもったいなくて見てられない。 だからさ、これの中にお前の涙ためようぜ。そんで金魚でも飼って、一緒に見ようよ」

指差したのは、しんべヱがお父さんから貰ったままにしているガラスの器。

「な。いいだろう」

「……うん」

きり丸が笑って、しんべヱは笑った。私も笑った。

「ほら、しんべヱ、早く泣き止まないと。きりちゃんと一緒に金魚眺められないよ」

しんべヱが泣いていた理由は分からないけど、 本当にそんなことしたら(涙と鼻水と涎に満たされた金魚鉢なんて)きっと酷いもんだろうけど、 きり丸がなにかを飼うなんてするわけないんだけど、私はこの2人が大事で大切で仕方なくてたまらなくなって2人一緒にぎゅうと抱きしめた。

「2人とも、私もその仲間にいれてくれなくちゃいやだよっ!」



『水槽』
10/5/11