beautiful days



オーディオから流れてくる女性ボーカリストの歌を、両目を閉じて聞いている。 壁に埋め込まれた機材に寄りかかりながら音楽に集中しているムーンドギーの顔からは何の表情も読みとれない。 古い歌だった。ギジェットにも聞いた覚えがある。確か5年程前にヒットした曲だ。

「この曲、この船に乗るまえずっと聞いてた」

瞳を開かないまま、歌にかき消されてしまいそうな程の小さな声で淡々と呟く。

「月光号に乗るって言ったら、オレの友達が、俺らずっと友達でいようなって」

なぁ 『J』 お前と会えて良かった

「もう会えねってわけでねえのに、なに言ってンだって思ったけど、悲しくて、俺ら誰も居ねっけど平気だろ、やってけンだろ、とか言うから、もっと悲しくなった」

澄んだ高い歌声が部屋に響く。懐かしいサビが流れた。

「ホランドはオレの憧れで、それはいまもなんだけンど、あの頃、ずっと一緒だった友達と離れてもどうしても憧れに近づきたくて」

ムーンドギーの口調は誰に対して話しているわけではなくまるで自分自身へ話しているかのようだった。 月光号に乗ったこと、いま後悔してるの? と問うと、薄目を開けてちらりとこちらを見た。そしてまた瞳を閉じて、首を横に振った。

「後悔とかそういうのじゃ、ない。そういうのと違くて、ただオレは」

( 懐かしい、と思ったんだ。 )

「あれから誕生日が4回きて、今日をいれたら、5回」

( 時々すごく、昔の友達に会いたくなる。 )

ケンカは何度もした。だけどいつも一緒に居た。長くはないけれど短くもない時間を共に過ごした大事な友達。 アイツらも、自分と同じように成長して、変化して、憧れを見つけて、それに近づこうと頑張っているのだろうか。

(時々すごく、昔の友達のもとに帰りたくなる。)

また会いたい。昔のように些細なことで腹を抱えて笑いたい。

(時々すごく、昔の友達が恋しくて寂しくなる。)

お前らが居なくてもやってこれた。だけどやっぱり、居てくれた方がいい。

時間がたって、色んなモノが変わって、声変わりして、成長痛が辛くて、でも背が伸びて、 毎日楽しいし、リフも前よりうまくなった。だけどLFOには乗らなくなった。

「たのしかった、けど」

( 同じくらいやなこともあった。 )

曲が終わり、部屋が急に静まり返る。

(寂しい、けど、大丈夫。)

終わったはずの曲がまた最初から流れ始めた。心地よい曲と女性の歌声が部屋に響く。 ムーンドギーは閉じていた瞳を開いた。寄りかかっていた身体を起こして真っ直ぐにギジェットの瞳を見つめて、笑った。

「明日はいい日だ」

( 明後日はもっと良い日だ。明々後日はもっとずっと良い日だ。 )

晴れやかな笑みを浮かべるムーンドギーに歩み寄りギジェットは手を差し出した。 差し出された手と顔を交互に見て何事かと首を傾げるムーンドギーに、誕生日おめでとう、と言った。

ムーンドギーは、そうっと差し出された手を取って、ゆっくりと身体を起こした。

「ありがとう」

明日もいい日だ。





END



ドギー、生まれてきてくれてありがとう。


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