「ツメ、切っちゃうの」
彼女が、あの長く美しい爪を躊躇いもなく切ってしまおうとするものだから、思わず声をかけた。 彼女は少し離れた場所に立つオレを振り返って、笑った。
「そう、切っちゃうの」
どうして、と問うべきか考えていると、傷つけちゃうから、と彼女が言った。
「あいつの背中、いつもこの爪で傷つけちゃうのよ。だから、ね」
自分の長く美しい爪を見て、そっと微笑む。彼女の照れ笑いは美しかった。

爪を切る音が響く。長く美しかった爪を無くしても、彼女は綺麗だった。
『彼』の背中のひっかき傷を想像する。傷は、少し血が滲んでいる。 ベッドの中で、しがみついた時に出来たその傷は肩胛骨辺りから肩まで続いている――

手の平を広げて裏返す。自分の爪は彼女の爪とは違い、長くもなければ美しくもなかった。 隠すように指を握り込む。(ツメをのばそう。)握り込んだ手に力を込めた。 (にぎったら手のひらに食いこむまで、のばすんだ。)

彼女は鼻歌を歌いながら爪を切っていた。その顔はとても幸せそうだった。



『笑うことも泣くこともできず、ただそこに立っていた』
あみさんリクエスト 「ドギ→ホラ←タルホ」 アンケートにご協力ありがとうございました。(小説のタイトルはお好きに換えてくださって結構です。)