自分の部屋でない場所で目を覚ました。( ……あぁ、うん、そうか、そうだ。 )
確かめるように頷いてから部屋を見回す。もう見慣れた、彼の部屋。
窓の向こうに広がる紺色の空に朝の色が滲み始めていた。夜が明けるのだ。

朝焼けは嫌いだ。どことなく、怖くて、寂しくて。( それに、 )
――――の、合図だから。

温かいベッドから出る。部屋は少し肌寒かった。
散乱した服を集めている時、どうした、と、くぐもった低い声が背筋を撫でた。
瞬間、ドアまで走った。ドアの前で、しがみつくように立ち尽くす。
彼がまた、どうした、と言った。もう声は寝ぼけていなかった。

「……戻ろうと」

「どこへ」

「じ、ぶんの、部屋に」

「なんで」

( なんでって、 )

少し、この人を嫌いになった。そんなこと、( 言わなくても分かれよ。 )

彼がベッドから降りた音がした。裸足のままペタペタと近づいてくる、音がする。

「戻るって、裸のままか?」

後ろから緩く抱きしめられた。
振り返りたくなくて、ただじっとドアを見つめ続ける。( だって、戻れなくなる。 )
手に持っていた服をきつく握り込む。

「……もう、いかなきゃ」

( 完全に朝になる前に。 )

「みんなが起きてくる、から」

そう言うと、彼の腕が身体から離れていった。それを寂しいと思う自分が、憎い。

朝焼けは部屋に戻る合図。 みんなが起き出す前に、自分の部屋に戻るための。
彼はそれを知らない。だってこれは自分で作った、ルールだ。教えるつもりもない。
朝になる前に、自分の部屋に戻ってベッドに潜り込む。 朝になって、ぐっすり寝てましたという風にあくびをしながら食堂へ向かう。いつもと同じ、平穏な朝。

離れていったはずの腕にまた抱きしめられた。後ろは、振り返らない。
背骨を辿る、彼の指。首筋を舐める、彼の舌。背中に感じる、彼の胸。

( 行かなくちゃ。本当に、もう、行かないと。 )

部屋を出る為のドアは目の前にあるのに。触れてさえいるのに。出ていけない。

「ドギー」

名前を呼ばれて、ドアの開け方を忘れてしまった。

「もう少し居ろ、まだ行くな」

込み上げる色んな気持ちを飲み下す。行かなくちゃ。でも。 後ほんの少しだけ、身体全部でこの瞬間に浸っていたい。

窓から見える朝焼けが、部屋へ戻れといっている。


このままドアがずっと開かなければいい。そう思った。



『ほの暗い部屋』
アラタメグミさんリクエスト 「切なくて甘い感じ」 アンケートにご協力ありがとうございました。 (小説のタイトルはお好きに換えてくださって結構です。)