とてもいい天気だった。

空は青々として、雲は白く大きくゆったり流れて、風が程良く吹いていた。


今日はいい日だ、とムーンドギーは思った。
あの人も楽しそうにリフをしていて、滅多にやらない技を惜しげもなく披露している。

今日はいい日だ。
何もかもうまくいくような気がする。全てが自分に優しいような、そんな気がする。


( わかってる。 )


今日も自分は何も出来ない。何も言えない。いつもと何も変わらない。
何もかもがうまくいくなんて、全てが自分に優しいなんて、そんなことは、ない。


きっと今日はリフ日和だ。スカイフィッシュが視界の端で、花弁のようにひらりひらりと舞っている。






宙を滑っている時、ホランドと目があった。
会話を交わすことなく、視線を合わせたままムーンドギーに技を見せつけてきた。

きっとすごく上機嫌なんだ。負けじと、自分も難易度の高い技を披露してみせる。
するとホランドがもっと難しい技を軽々とこなす。それにムーンドギーも難しい技で応戦する。

それを幾度も繰り返し、技を出し尽くしたところで自然と止めになった。
額に汗を滲ませながら笑う。生温い風が湿った髪に心地良い。

ホランドもムーンドギーも、何も言わなかった。何も言わないかわりに声もなく笑う。



これでいい。これがいい。この距離が一番ちょうどいい。ムーンドギーは笑うのを止めて空を見た。

( なにも言わない。だから、なにも望まない。 )

何も言わないから何も望まない。何も望まないから何も言わない。
言わないでいられる。望まないでいられる。大丈夫。このまま、ずっとこれがいい。

( わかってる、 )

分かっているのだ、自分は。




地上に降り立ったホランドを見下ろす。灰色の癖毛が風に揺れている。
視線に気づいたのかホランドが振り返りそうになったので、目があう前に、先に目をそらした。
遠くで輝く太陽を見つめる。眩しくて、目を閉じてしまいそうになる。

( わかってるのに! )

駄目だ駄目だ駄目だ。駄目だ、駄目だ。自分に言い聞かせる。駄目だ。
心臓の音を感じる。願ってはいけないことを思う。分かっているのに。

( あの人も、自分と同じところへ、落ちてくればいい―― )

そんなことを思う自分はなんて、なんて醜く浅ましいのだろう。



ボードの上でバランスを崩した。あ、と思った時にはもう遅く、身体は確実に地面へ向かっていた。
落下していく最中に見上げた空はますます青く大きく見えた。押しつぶされてしまいそうな程に。

今日は本当に ( 泣きたくなるくらい ) いい天気だ。


目を閉じた。

( このまま、空に溶けてしまえたらいいのに。 )


温かい風が吹く中、ムーンドギーの落ちた音が辺りに重く響いた。






            つづく


少し前のお話。