ぼんやりとカタパルト管制室の椅子に座っていると、背後でドアが開く音がした。
ここならしばらく誰も来ないだろうと思ったのに。ムーンドギーは苛立ちを隠さず、振り返る。

瞳が見開かれる。僅かに身体が身構えた。

「……っ」

「よう」

「……また殴るの?」

オレ痛いのヤだよ。優しくしてよ。病人なんだよ。

自分で言っているのに酷く面白くて、ムーンドギーは口の端が上がるのを止められなかった。

ホランドはそんなムーンドギーを睨むように見つめながら、持っていた一冊のノートを差し出した。

「これに見覚えは?」

「ある」

「何だか分かるのか」

「日記だったもの」

「だったもの?」

「もう書いていないから」

「……前の、お前のだな」

「そうだね。知ってる」

ホランドからノートを受け取ってパラパラと捲る。まるで子どもみたいな丸い字。

何故だか喉が渇いていく。ムーンドギーも、ホランドも、同じことを考えていた。
水の代わりに、次々に溢れる様々な感情や気持ちを振り払うように飲み下す。

「信じられない」

ムーンドギーは数週間前の日付を指でなぞった。

「本当に少し前の事のハズなのに、何も覚えてない。ここに書いてある事が、全部嘘に感じる」

「嘘だったらいいのか」

「……何も変わらないよ」

「何が、」

「何もかもが」

強い目線とぶつかり合う。

( 違う。 )

今、ホランドの前にはムーンドギーと酷くよく似た別の人間が居る。

「変わらないのか」

「変わって欲しいの?」

「そりゃあ」

「どうして? 前のオレって、あんまり良いトコなかったみたいなのに? それでもいいの?」

「今のお前よりはずっとマシだ」

「そんなにオレが嫌い、かぁ」

椅子にぐっと背中を押し付けて伸びをする。
ふとどこかを見てから、また手元のノートをぱらぱらと捲り、目を落とす。

「あのさ」

日記の、ある一文を指でなぞる。その手はとても優しい愛撫のようだった。

「あんた、オレとキスできる?」

また目があう。
今度は先程のような強い目線ではなく、ムーンドギーもホランドも、どちらも労るような目をしていた。






            つづく