梟か何か野鳥の鳴き声が聞こえる。
灯りのない部屋で、布団の中にいる伊達の上に明智は覆い被さっていた。 上等な掛け布団は足下で無惨に丸まってシワを作っている。

「また傷が増えましたね」

「戦続きだからな。……あんた、好きだろう」

「戦がですか、それとも傷がですか」

「どちらでも」

「どちらとも」

ニィと薄い口唇をめくるようにして、さらに小さく喉の奥でクックッと笑う。
伊達はこの明智の笑い方が好きだった。奇妙で薄気味悪いのに、どこか子供のようで、憎めない。

明智が入ってきた時に開け放たれたままの障子から、自慢の庭が見える。その空で、黄と白の間の色をした月が輝いている。
胸元に明智の舌の感触がして見下ろすと、月の光りに照らされ濡れるように輝く明智の長い髪が間近にあった。 そっと匂いを嗅ぐと明智の好きな香の香りがした。

「――あんたは、細いな。細い上に薄い」

「いつでも消えられるように」

「消える予定があるのか?」

「あなたが困るのなら消えませんが」

「Shut up。そういう無駄口は好きじゃねえ」

またあの笑みを浮かべる。

伊達は、目の前の髪の一房を乱暴に掴んでそのまま思いきり噛み付いてやった。

「美味しいですか、私の一部は」

本気で問うているだろう顔で言われて、こいつには嫌がらせが嫌がらせにならねえな、と髪を噛んだままため息をついた。

「……美味いわけねえだろう」

髪から口を離す。するとすぐに明智の薄い唇に覆われた。文字通り、噛み付くような口吻だった。 しばらく口内で舌遊びをした後、明智から顔を離した。

「私はあなたが美味しくて仕方がありません。――食べ尽くしてしまいたい」

細く冷たい手が伊達の頬を撫でてから右目を覆う眼帯に伸びた。指先で軽く押してから、外す。
普段外気にさらされる事のない右目に涼しさを感じて伊達は咄嗟に手を右目に当てようとした。 しかしその手を明智に押さえられ、やんわりと止められた。

「どうしてでしょう。私はあなたが愛おしい。愛おしいから、優しくしたい。けれど、酷くもしたいんです。思いきり傷つけてやりたい」

これは、この気持ちは、愛と呼べるのでしょうか。

疱瘡の痕が酷く残る右目を上から見下ろして、たまらないといった風に唾液を飲み下す。目の前の明智が、伊達は無意識に怖いと思った。
痕の一つ一つに指先でそっと触れていく。時に撫でて、感触を楽しんでいる。

指が、もとは眼球が収っていた空洞に入り込む。クス、と笑った。 その笑い声が伊達の耳に届いた時、もうすでに右目だった場所を舐められていた。何度も何度も舐められ、ズズッと音をたてて啜られる。

喰われている。
自分が、喰われていく。

右目を啜る音に背中が泡立ち、伊達は思いきり明智の肩を叩いた。

「す、Stop!やめ、……ぅ、おいッ、ぁ、……っやめねえか!」

やや大きな声を出してしまって、伊達は咄嗟に辺りを見回した。誰かを起こしてしまって、様子を見に来られては困る。
しばらく耳を澄まして外の様子を窺う。何の変化もない。大丈夫そうだ、と伊達は小さくため息をついた。
そんな伊達を明智は口元を拭いながら楽しそうに笑った。

「あなたはやはり面白い人ですね。そうしていつも私を喜ばせる」

起きあがり、袖で軽く拭ってからそのまましばらく右目を押さえる。
そっと目だけを動かして明智を見ると、頬杖をついてとても楽しそうに伊達を眺めていた。

おぞましい、と思う。

「私はいつかあなたを食べ尽くしたい。骨すら残さずあなたの影さえも全部、食べます」

酷く嬉しそうに、楽しそうに、幸せそうに、そんな事を言う。

深く息を吸って、ゆっくり吐き出す。
この男をおぞましいと思いつつ、それをどこか嬉しく、愛おしいと感じている自分が、何よりも、おぞましい。

「あなたが愛おしいんです」

明智に、黙って手を伸ばして床へと誘った。
自分はこの男にどうやって愛を示し返せばいいのだろう。料理を作ってやる? 共に暮らす? それとも、それとも。

倒されて視界に銀しか見えなくなって、伊達はそれ以上考えるのを止めた。



『食道を通って胃の中で溶けて腸に吸収されて』
BASARAでアケダテ。狂人スキです、書きやすいから。ちょっとこの伊達は女々しいなぁ。別人28号(そればっかり)。
蒼葉に捧げます。タイトルは自由に換えてOKです。