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練習が終わって、主将と副主将の居残りミーティングも終わった後、 栄口が今日は晩飯当番だからごめんって先に帰ったので、 残った俺と阿部はなんとなく、いつも通り、ヒマ潰しみたいに、キスをした。 こいつからなんて事は今までも一度もなかったし多分これから先もないだろう。 今回もやっぱり堪えきれなかった俺からだった。 いつも騒がしい部室に俺達の動き一つ一つにたつ畳の音とキスの音が響いて、 やらしいなぁとか考えてたら不意にこいつが口の中で呻いた。 ちょうど舌で下歯茎の横をなぞった時だった。もう一度そっと同じ場所に触れてみると結構深い傷が出来ていた。 そういえば口の中の肉を噛んでしまって痛いと言っていたっけ。 至近距離で睨まれた。あぁ、うん、悪ぃ、いてぇよな、ごめん。 キスしたままちょっとだけ笑ったら掴まれてる腕に爪をたてられた。だから、ごめんって。 普通にしていても歯が傷を抉る場所に傷が出来ていて、あぁきっとこれは治るのに時間がかかる。 無駄に痛いんだよな、こういう傷ってさ。俺もたまになるから分かるよ。 とか思ってたら、下唇に噛み付かれた。いってぇ。そんで、ざまぁみろって言いた気に鼻で笑いやがった。 こんにゃろ。仕返しにわざと傷の部分を舐めてやった。すると大きく体を震わせて、痛みに耐えるために 目をぎゅっと瞑っている。あ、なんか可愛い。そう思ったら無意識のうちにまた同じ場所を舐めていた。 今度は我慢出来なかったのか鼻から声が漏れた。その声がアノ時の声とよく似ていて、あぁ、ダメだ。 もうそこだけ舐めた。遠慮無しに胸を叩いてくるからその手を掴んで畳に押し付けた。舌で傷を抉る。 身体を捻らせて逃げようとするから、その腰に足を絡めて逃がさない。すげぇ、顔が真っ赤だ。 腰に足を絡ませているから下半身が密着して、あー、はは、勃ってら。いてぇ。 傷口に舌を捻り込む。ちょっとだけ血の味がする。 ここ部室だけど、明日も早いからもう帰らないとなんだけど、急いで部誌書かなきゃなんだけど、 でももう、いいや。もう何でもいい。とにかくヤりたい。な、阿部、いいよな。 って聞くために、阿倍の口内から名残惜しいが舌を抜いて、顔をちゃんと見たら。 壊れた蛇口のように、あの大きな目が、ダーダーと泣いていて。 一気に体中で爆発寸前だった熱が引いた。やっちまった。 自分が世界で一番おぞましい生き物に感じて、泣けてきた。 ポカンとした表情のまま何も言わないこいつの静かな涙の音と、 自分が恥ずかしくて仕方ない俺から零れる塩水の音が、静かになった部室で溶けて混ざり合ってぐちゃぐちゃになった。 しばらく泣いた後、そろそろ帰るか、そうだな、ってなって、いつものように戸締まりをして部室に鍵を閉めた。 2人並んで自転車をおしながら帰る。星が綺麗だった。他愛もない話をして、笑って、たまに怒って、また笑った。 分かれ道がきて、また明日な、おうまた明日、と言って手を振って別れた。ちょっと歩いて、阿部が立ち止まった。 お前、傷作ったら言えよ。同じ目にあわせてやるから。覚悟しとけ。 ニィッと笑いながらそんな捨て台詞を残して今度こそ自転車に乗って行ってしまった。 家の玄関で妹達に、お兄ちゃん、色んな意味で酷い顔をしてる、と言われた。 何かもう、笑うしかない。 『Youthful folly』 花阿。若さ故の暴走。 花井はグダグダぐるぐる悩んだり暴走したり忙しいけど阿部はスッパリきっぱりしていてあんまり悩んだり暴走したりしない。 そんな2人が好きです。 ちなみに色んな意味で酷い顔というのは、泣いたせいで目元が赤いのと、 別れ際の阿部のあの台詞にうっかりトキメいちゃったから。そりゃ酷い顔だろうて。 |