何も不思議なことなどないさ。

彼らだけが死んでおれだけが生きているなんて、おかしなことじゃないか。

だから、



そこら辺に落ちていた書類の中から裏が白いものを選び、そこら辺に転がっていたボールペンで走り書きをした。 殴り書き過ぎて、文字が汚くて、自分でも何を書いたのか読めなかったが書く手を休めることはしなかった。

ただ書かなければという思考が頭の中をひた走る。 書いて書いて書いてと言葉が訴えてくる。書いてそして認めるのだ、と。

ボールペンを持つ手は意味を成さない言葉を生み出していく。 何の思いも込み上げてこない。いや嘘だ。込み上げてきている。 今すぐにでもソレを吐き出したい。吐瀉物のように汚物のように床に巻き散らかしたい。 嘘だ。嘘だ。何の思いも込み上げてこないなんて嘘だ。何の思いも込み上げてこないというのが嘘だなんて嘘だ。

気持ちが悪かった。

目の前がさっきからグラグラと揺れている。落ち着かない船の上に立っているような感覚だ。 多分おれ自身が揺れているんだ。
だから書き続ける手とは反対の手で自分の太股を殴った。
落ち着けよ馬鹿野郎。気持ち悪いんだって言ってんだろ。揺れやがって、ふざけんじゃねぇよ。これ以上気持ち悪くなったらゲロしちまうじゃねえか。軍服が汚れるじゃねえか。

それで良いじゃないかと自分自身が言った。
それで良いんだそれが良いんだ。本当はそれが一番したいんだ。 だからするべきなんだ吐くべきなんだ軍服なんて今すぐ脱いで破いて燃やしちまってさ別の服を着ようじゃないかお気に入りの黄色のスカーフを首に巻いてさそういうのが許される服を着ようじゃないか。

ああ駄目だよ何言ってやがんだ。 おれはそんなこと許されるわけがないんだ許されてはいけないんだふざけんじゃねえよウザってぇなチキショウがてめぇなんざ人殺しのくせしやがって何言ってんだ誘惑するんじゃねえよ止めろよ五月蠅いんだ。

太股を殴った拳で今度は自分の横っ面を思い切り殴った。



書く手を止めた。紙切れは所々が濡れている。
なんだコレ。天井が雨漏りでもしてやがんのか。天井を見上げても、そりゃあそうだよ雨漏りなんてするわけがないんだ。

ああ、これ、おれの涙か。

紙切れの一番下のところに文字が踊っている。読み辛い。

「全部忘れられる機能が付いていたら」

酷く汚い字だったが確かにそう書いてあった。
自分で書いたにも関わらずあんまりにも他人事にしか思えなかった。

そうかいそうかい、全部忘れたいのかおれはよ。でも知ってんだ何も忘れられないってことはさ。 そんなこと分かってんだ分かってんだよ。


気持ち悪い。

何も知らなければ良かった。


何も知りたくなかった。





世界のことなどこれっぽちも、理解しようとしなければ、







朝がきた。

残酷な朝の光に、目が涙を流した。




『遺書を書き記し終わったA.M.3:00の空気の色』
SOL時代の若ホランド。遺書を何十枚書いても死ねない自分。