ビューラーで睫毛をあげる。下を向いていた睫毛がふんわりと上を向く。

マスカラを塗って睫毛をさらに長くする。ぐんと伸びた睫毛に胸がキュンとなる。

リップを塗ってピンクのグロスを唇にひく。ツヤツヤの唇が光を反射して輝いた。


これが私の顔。これが、彼が「かわいい」と言ってくれた私の顔。

鏡に映った私の顔は、満足そうに笑っていた。






「ねえドギー。私の顔、よく見て」

「へ?」

テレビを見ていたムーンドギーの顔を掴んで、ぐっと顔を近づける。
彼は恥ずかしいのか嫌がっているのか、顔をぐっとひいて「なんで」と言った。

「いつもと違うとか、思わない?」

「思わない」

「よく見て」

「見てっけど、わがんねって」

「もっとちゃんと見て」

「だから、どこもなんも変わってねって」

液晶テレビにゲッコーステイトのニュースが映されている。
彼はこれをさっきから熱心に見ていたのだ。

ねえ、ファンデーションの種類をね、換えたんだよ。チークもいれてみた。
マスカラも換えたの。だから前よりももっと睫毛が長くなってる。
グロスだって色を換えてみたんだ。いつもより赤くて、大人っぽいでしょう?

ねえ、気づいてよ。
変わってないなんて、言わないでよ。

( また「かわいい」って言われたくて、頑張ってるんだから。 )


「顔が、どうかした?」

ポッキーを美味しそうにポリポリ食べながら、首をかしげている。
彼は本当に、気づいていないのだ。

「あ。」

テレビにホランドの顔が大きく映された。顔写真の下に大きな赤い文字で「指名手配」と書かれている。

「…………。」

彼はそれからホランドの顔写真が消えるまで、ずっと画面を見続けた。


「ドギー」

彼はいつものように「ん?」と言いながら振り向いた。

「私の顔、本当にいつもと違くない?」

もう一度私の顔をじぃっと見たあと、彼はやはり、わがんねぇ、と言った。

私に興味がないのかもしれない。
だからこんなに頑張ってお化粧しても、気づいてくれないのかもしれない。

ほんの少しそう思ったらもう胸のうち全てに黒いものが広がった。
あたしはこんなに、ドギーのこと大好きなのに。


「でもオレ、お風呂上がりのギジェットの顔がいちばんすき」

そう言って彼は食べ終えたお菓子の袋を持って行ってしまった。

「もっとちゃんと言ってよ」

足が自然と、化粧を落とすために洗面台に向かっていた。




『15歳の私に冷たい希望を、』
(ホラ←)ドギ←ギジェ