月光号は水分補給の為に、寒い街へ降り立った。
灰色の空、人の少ない広場、暗い顔の住民。寒くて寂しい街だった。

軍に見つからないように街から離れた岩場に月光号は止まっている。
その月光号から、ムーンドギーは普段通りの薄着のまま外へ出た。
空調が効いて暖かい船内から一歩外へ出ると、寒さで身体がぶるりと震えた。

少し歩いた場所にある岩陰に腰を下ろし、腕をさすりながら空を見上げた。
いまにも雨か雪が降り出しそうな、灰色の空。

唇を少し尖らせて、フゥ、と息を吐き出す。

吐き出した白い息が、煙草の煙のように見える。
ムーンドギーはこの煙草の煙のように見える白い息がとても好きだった。
寒い日にはわざわざ外に出てまでやるほど、好きだった。

ふー、ふー、ふー。

「それ、楽しいか?」

声が聞こえて、ムーンドギーはすぐに立上がって辺りを見回した。
けれど自分以外、誰も居ない。

「ここだ、ここ」

岩場の奥から、ノルブという坊主がのそりと出てきた。

「先に言っておくが、俺はお前さんが来る前からここに居たぞ」

恥ずかしいところを見られた。
ムーンドギーは「邪魔をしてごめんなさい」と言って船へ戻ろうとした。

「何故帰る必要がある? 居たければ居ればいいだろう」

動けずにいるムーンドギーの隣りにどさりと座って、地面をペシペシと叩いた。
座れ、ということなのだろうか。
横に座ると、ノルブは懐から煙草を取り出し慣れた手つきで火を付けた。

煙草の煙がユラユラと周囲に広がって、消えていく。
目的があって横に座ったのかと思ったが、ノルブは黙って煙草を味わっていた。


フゥ。

ふー、ふー、ふー。

唇を少し尖らせて息を吐き出す。煙草の煙に似た白い息がやんわりと広がった。

( ドーナツみたいな輪っか、出来ねっかなぁ。 )

はふぅ、と息を吐き出した。ただの白い息がポワンと現れる。
今度は舌を口の中の真ん中まで持ち上げて、息を吐いてみた。
ドーナツのような輪っか、ではないただの白い息だった。

ふー、ふー、ふー。

何度も唇の形をかえては息を吐き出す。

フー。

息を吐き出しきったところで突然キスをされた。
坊主頭の後ろに、白い息が風に流されながら消えていくのが見えた。

唇に自分以外の体温を感じる。温かくて気持ち良くて、目を閉じた。
目を閉じた途端、暖かさが増した。

( あったけぇなぁ……。 )

ただ唇を重ねているだけなのに。

( ……ん? )

疑問を感じ始めたところでノルブの方が先に身体を離した。
離れた途端に、唇がまた冷たくなっていった。

( えーと、 )

いま、いったいなにがおこりましたか?
ゆっくりと状況を理解する。驚きのあまり叫び出しそうになった。

「な、な、なんで」

ノルブはとても不思議そうに、口寂しかったんじゃねえのか? と言った。
後頭部をペチペチと叩きながら、いやぁスマンスマン、と笑っている。

「ただ、ドーナツみたいな輪っかが、作りたかっただけで……」

思わず泣き出しそうになったが、ノルブが低い声で「すまなかったな」と囁くから、 泣くこともそれ以上何かを言うことも出来なかった。

お詫びに、とノルブは煙草の煙でいくつもの輪っかを生み出した。
空に漂ってやがて消えていくドーナツをムーンドギーは、冷えていく唇を冷たい指でなぞって、 もう一度だけ温めてほしいと思いながら見つめた。

誰かのキスと似て、とても温かく優しいキスだった。




『メロウ』
ノルブ×ドギー、というよりノルブ+ドギー。アニメでの接触はなさそうだ。