手を繋ぎたかった。思えば自分たちは、キスをしたことがあってもまだ手を繋いだことはなかった。 それも今までたったの一度も、だ。キスの最中に指を絡ませ合うことはある。 緊張と興奮で硬直してしまう自分の指を彼の指がなぞり、指の形をつぃっと辿る。 そしてしっかりとふれあうことなくキスの終わりと共に離れていく。 それがいつも名残惜しくてしょうがなかった。

なぁ、と言われ、あぁ、と思った。 いつものように目を閉じると頬を撫でてから唇を舐められた。途端に硬直した自分の指に彼の指が絡む。 唇があわさってからこそりと薄目をあけて盗み見る。 彼の瞳と目があった。瞬きと同時に舌が入り込む。息がつまって鼻から声が漏れた。 舌を吸われて軽く噛まれる。唾液が顎を伝った。 彼の指は、ただ指をなぞるばかりで、手を握ろうとも他の箇所を触ろうともしない。 下唇を噛んでから彼の唇が離れていった。顔を覗き込まれ、また目があう。 顎を伝った唾液を舌で舐めとられた。手が震える。身体が熱い。立っていられない。もどかしい。 堪えきれなくなって硬直していた手を動かした。彼の手は掴めなかった。

何してんだ。彼が耳元で囁いた。力無く首を横に振って答える。 なんでもない、よ。何でもなくねえだろ。でも、なんでもないんだよ。 睨まれる。彼の凛々しい眉が不愉快そうに寄せられている。 こんな顔も好きだと思う自分はきっとどうかしてるんだ。 ただてをつなぎたかったんだよ、それだけだよ。声にはならなかった。

寒い、のか。彼の言葉に顔をあげると、先程までの不愉快そうな顔はどこにもなくて、 代わりに切れ長の瞳を驚いた時にするように丸くしていた。なんのことだろう。 彼の目線を追うと、カタカタと小刻みに震えている自分の手が、そこにあった。
おかしいな、さむいわけじゃあ、ないんだけど。震える手を握り込んで誤魔化した。
ため息が聞こえた。また、怒らせてしまった。 怒らせたいわけじゃないのに、どうして自分はいつも彼を怒らせてしまうのだろう。彼はもう一度ため息をついた。
言えよ、おれにだって耳はついてんだから、お前の声も、ちゃんと聞こえるんだぞ。 首筋に触れられた。彼の手は熱かった。熱が鎖骨をなぞる。身をよじらせた。
嗚呼、この喉の奥に詰まって吐き出せない気持ちは、この動かない手は、
いつになったらこの人のもとへ
(きっとずっと、そんなこと、ありはしないさ)

何か不安なことでもあるのか。ふあん、なことなんて、なにひとつ、ないよ。
なあ、いまお前、何考えてんだ。なんも、かんがえてない、よ。
手を思い切り強く掴まれて、彼の手と一緒に服のポケットの中へ押し込められた。
彼に手を握られている。彼の手は温かだった。温かくて大きくて、泣きたくなった。
そう言えば、初めてだな、手を繋ぐの。(きっとずっと、そんなこと、ありはしないさ) ……何か言えよ。(きっと)なあ、おい。(ずっと) おい!(そんなこと)
彼の手は温かだった。自分の手はまた硬直している。(ありはしないさ)

ずっと彼と手を繋ぎたかった。彼の手は温かだった。




『貴方が泥色の憂鬱を流してくれる事を願ってた』
どう甘えたらいいかわからないドギー。ホランドじゃなくても、言わなきゃ誰も何も分からないよね。