「ねぇねぇ、それ、方言だよねぇ?どこの言葉?」

何だか猫になつかれた気分だ。
斎藤タカ丸は目をキラキラさせながらさっきからずっとこんな調子で、彼独特の緩い喋りで話しかけてくる。

「おーヨ、神奈川弁だべ。ンな珍しっかィ?」

何か一言喋るだけで斎藤タカ丸がまるで子どものように喜ぶものだから、付きまとわれても嫌な気にはならなかった。

「いいなぁいいなぁ、方言てすごく憧れる」

「ぁ、゛憧れる゛?」

田舎者、格好悪い、ダサいと言われ放題だ。特に、彼のような都会の者からは。
(だからといって、今まで一度も気にしたことはなかった。むしろ誇りに思ってきた。)
方言に憧れる、なんて今まで一度も言われたことはなかった。だから嬉しかった。

「憧れるよ。だって秘密の暗号みたいでかっこいいし、 何か、大切な故郷をもってるんだなぁって感じるんだもの。ぼくは方言をもっていないから、羨ましい」

顔を興奮で赤くしながら楽しそうにはしゃいでいる。その唇がまた独特の形に笑みを作った。

「お前さん、本当はタカ丸でねくてネコ丸だぁな」

「へ?」

その顔がまた何とも可愛くて堪えきれずに吹き出すと、タカ丸が不思議そうに瞬きしたので、 彼の耳元に口を寄せて彼にだけ聞こえるように、あんたを気に入ったってことさ、と普通の言葉で囁いた。 一気に赤くなった首筋を見て、誘われるように手が伸びた。触れる寸前、強い目線を感じて引っ込める。
見ると、目の下に濃いクマのある六年生がこちらを鋭い目で睨んでいた。

「なーぁ、ネコ丸よぅ」

「……猫じゃないよ鷹だよ。ぁ、あごの下くすぐらないで」

「あっちの、あいつ。あれ、男かィ?」

「え……潮江くんのこと? うん、見ての通り男性だよ」

まるで自分のものに触れるなと言いたげな、あの目線。
向こうと目線を合わせたまま彼の肩を抱き寄せると、向こうの顔はさらに険しくなった。

「そういう意味でねンだけど……まぁ、なァるほど、『男』なぁ」

抱き寄せた肩をさらに引き寄せ、抱き込む。
残念だなぁ、あーあ、本当に残念だ。

「いつかあんたも風魔に来たらいーだヨ」

「うん、行くよ、行きたい。与四郎くんが育った村を見てみたい」

腕の中で、彼はくすぐったそうに笑った。彼の笑う顔がとても好きだ。

「いーとこだからきっと気に入ンべ」

そンでずっとそこに住めばいい。
思わず出かけたその言葉は流石に、洒落た髪型の頭をぐりぐり撫でながらどうにか飲み込んだ。

なぁ、“しおえくん”とやら、これぐれーは許してくんねーかい?
秘密の暗号で会話をする土地へ連れ去ってしまおうなんて、今は、まだしないから。



『胸騒ぎの予感』
与四郎→タカ丸←文次郎。 これが私の与四タカデビュー作。
与四郎さんの、男かィ?発言は、あなたの彼氏(男)ですか?って意味です。タカ丸は真意に気づかず性別を答えてます。それは見れば分かりますよタカ丸さん。