あれ。あれが、気にくわない。だってもぞもぞする。 視界に入ると、あれを見ると、胸が背中が手が頭の中が、もぞもぞして、 眉が寄って、こら喜八郎そんな顔やめなさいって滝夜叉丸に叱られて、 タカ丸さんにも仲良くしなきゃよくないよって、めってされて、ああ本当にあれ。あれが、気にくわない。

「どうして喜八くんは、そう兵助くんが苦手なのかねぇ」

「いけないんだ、先輩なのに先輩って言わなかった、タカ丸さんいけないんだ」

「……喜八くん、剃られたいのは右の眉毛?左の眉毛?」

「ごめんなさい」

ふふふって笑うこの人の口元が好きだ。ふくふくの猫みたい。 美味しいもの食べて、心地良い日差しを浴びて、 眠いよーぅっでも寝たくないよーぅってしてる時の猫の顔にとてもよく似ている。

「猫丸さん」

「そんな人いません」

「だってもぞもぞするんです。あれ、嫌なんです。もぞもぞするから」

「おれは好きだけどなぁ、あれ。 もぞもぞなんていうより、むしろ、ふさふさって感じで。いや、もっとこう……ばさばさって感じ?」

猫丸さんもといタカ丸さんが自分の瞳の前で指を使ってあの人のあれを真似する。

「兵助くんの長い睫毛、どうして嫌いなの?」

「……もぞもぞするからです」

ああ本当に、嫌だ。胸の中が気持ち悪い。


***


「なぁ、俺、あいつに嫌われてんのかな」

「えーどうして? 喜八郎くんを怒らせるようなことでもした?」

「思い当たりはない。……はずだ」

「うん?」

「……この間な、あいつが一心不乱に穴を掘ってるのをちょっと見てたんだ。そしたら目が合って、」


***


「それでその時『先輩、その睫毛、全部毟っていいですか』なんて言ったって。本当?」

「ええ、まぁ、はい」

「何で!」

「千切る方が良かったですかね」

「どっちも駄目!どうしてそんなことするの、良くないよ!」

「だって。タカ丸さんはならないんですか。あれ見ても、平気なんですか」

「ならないよう!」

ああ睫毛も髪の毛だから怒ってるのか、そうかタカ丸さんは大変だな、タカ丸さんの睫毛は平気なのになぁ。 そんなことを考えていたら、あの人のあれが頭の中でぱちぱちって、 いやばさばさかもしれない、とにかくあれが、瞬きをした。

「ねえ、立花先輩の睫毛はどうなの?あれは毟りたくはならないの?兵助くんだけ?」

あの時、目があった時に太陽の光が透けてきらきらしていたあの、あれ。

「……喜八くん?どうしたの、手がもぞもぞしてるよ」

「タカ丸さん駄目ですごめんなさいやっぱりあれ毟ってきます」

「だから駄目だってばぁ!」

「だって、でも、あれ」

あの時とてもキラキラしていた。光っていた。長い睫毛が、風に揺れて、影ができていた。 あれに触りたい。触りたい。ああほら駄目だもう駄目だ。 あれを思い出して、触りたい気持ちが沸いてくると変な顔になって、 すると滝夜叉丸がそんな変な顔をするのは止めなさいって言って、じゃあ見ないようにしようって、 見ると触りたくてもぞもぞするから、見ないようにしようと、話もしないようにしようと、 でもそしたらタカ丸さんが仲良くしないといけないよって、めってするから、だから、 我慢しなくちゃいけないものでもぞもぞして気持ち悪くなって、ああもう。気にくわない!

「待って、待って待って、はいどうどう、まずは落ち着こう、はい深呼吸〜」

そう言ってタカ丸さんが一人で深呼吸をするのを見守っていると、あの人が来た。

目があう。

心が、もぞもぞ。して、おちつかなく、なって。

気づいたら走っていた。
驚いたあの人の顔が近くなるにつれて、あのキラキラ光る睫毛が揺れる。



「兵助くん逃げてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」



『僕が世界、猫な世界』
綾部は猫っぽい→きっと久々知の睫毛みるたびにじゃれつきたくなるんだろう。そんな妄想から生まれた。嘘です。
本当は綾部がタカ丸さんと仲良くしている久々知に焼き餅焼いて「その睫毛千切っていいですか」って言う話だった。それはそれで面白かったかもなぁ。