大樹の枝から枝へ跳ねるように移動して、時には枝葉を両腕で掻き分けながら森の中を進んでいく。 早く速く。一瞬の痛み、小枝で頬が切れたらしい。肩でぞんざいに傷口を拭って先を急ぐ。 早く速く。見覚えのある場所にきて初めて足を止めた。
すぐに目がその姿を捜す。居ない?いいや、居る。気配が、――居た。
止めていた息を静かに吐き出す。深く吸い込んで地面へと降りた。

「竹谷君」

雪が積もる地へ目を落としていた彼が、顔を上げた。鼻が寒さで赤くなっている。

「……利吉さん?」

「やあ。明けましておめでとう」

「あ、どうも、明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い申し上げます、って、これは?」

土を掘っていたらしく爪の間が黒くなっている手へ、ぽんと包みを乗せる。
彼はそれを犬のような瞳で見つめて、お年玉ですか、と言った。

「好きにとってくれて構わないけれど、気に入ってくれると嬉しいな」

「見てもいいですか」

「今は駄目」

えぇ何でですか、と笑いながら言う彼の髪に積もった雪を払う。ついでにその中へ指をもぐらせた。 その指通りに相変わらずだなぁと思った。

「この髪のせいかな。春がきて芽吹いたばかりの草を見ると、君に会いたくなるよ」

「何ですかそれは」

「夏になると森に入る度に、君に会いたくなる。秋には土を見ると君に会いたくなる。 冬になったら雪の匂いを嗅ぐと君に会いたくなる」

「一年中ですね」

「そうさ。僕は一年中君に会いたくなるんだ」

笑うと、彼も笑った。

「俺も……あ、私も」

一つ頷く。彼は正しくその意味を読み取ったらしく、彼らしい言葉で話し始めた。

「俺も利吉さんに会いたくなる時があります。 ここは委員会でよく来る場所だからっていうのもあるけど、利吉さんとはいつもこの森で会うから、 だから、委員会がない時もたまにここへ来てぼんやりしてるんです」

「ぼんやりするのは良くないよ」

「気をつけます」

うん、と頷いて彼を抱き寄せた。お互いに、服も肌も冷えていた。 温もりを生み出したくて強く抱きしめる。

「利吉さん、何でいつもここに来るんですか? 学園への近道なんですか?」

彼の頬を肩に感じながら、子供をあやすように背中を叩いた。

「いいや、むしろ少し遠回りかな」

「じゃあ何で」

「君が居るからだよ」

本当の事だったが、口に出すと自分でも笑ってしまいそうになる言葉だった。
しかし彼は笑わず、それどころかがばりと顔を上げ、目を見開いた。

「そうなんですか!? なんだ、そっかぁ」

「……うん?」

「俺ずっと、利吉さんここら辺に何か隠しものでもしてるのかなぁって思ってたんです。 だっていつもここら辺で会うじゃないですか。だから大事なものでもこっそり埋めて隠してるのかなって」

そう言って笑った彼の口元から雪に負けぬ白い歯が見えた。

「もしかして、さっき君が地面を掘っていたのはそれを見つける為とか」

「違いますよ、そんなことしません、冬眠してるやつらの確認してたんです。あ、利吉さんの頬に傷めっけ。どうしたんですかこれ、小さいけど痛そう」

「ここへ来る途中で……ああもう、君には本当、この先もどうか変わってくれるなと願ってしまうよ」

そんなに見つかったら困るものなんですか?と問われ、背中を叩く手を一度だけ強めた。 いて、冗談ですよぉ。彼はまた肩に頬を寄せた。左肩に感じる彼の重み。

「……でも、そんなようなものかな」

言うと、腕の中で彼が小さく動いた。背中にまわった手がくすぐったい。密着した胸が温かくなっていく。 鼓動を感じ取れるようにさらに抱き寄せた。深く息を吸って、吐く。 早く速くと町と森を駆け抜けて、会いたい会いたいと願った、彼。
頬の傷が何かを訴えるかのように僅かに痛んだ。

「俺のも隠しておいてください、利吉さんのと一緒に」

寒さと温もりと鼓動に紛れるように彼が小さく呟いた。



『同じ春を踏む』
お正月お持ち帰りフリー作品。利吉×竹谷という斬新過ぎる組み合わせに敏感に反応してくださる方に捧げます。
お持ち帰りの報告は任意ですが、一言頂ければとても嬉しいです。

……何だか思い切り書きたいところを書きたいように書いた作品だなと思いますが、あー書けて良かった。
めちゃめちゃ楽しかった。これぞまさしく、やまなしおちなしいみなしではありますが、どうか可愛がってやってください。