お医者先生と患者さんでホラドギ(仮)



「先生、彼です」

縦に小さく横に大きい先輩医師が案内した先の部屋。白で統一された病院の一室。病室も、白一色。 備え付けの椅子と申し訳程度の小さい窓、そして、壁際のパイプベッド。
その3つしかない部屋に、彼は居た。

「彼が、今日から担当して頂くムーンドギー君です」

「カルテには、ジェームズ・D・エマーソンと書かれていますが」

「彼はムーンドギーが本名だと思っているのですよ。ジェームズでは振り向きもしない」

「そう、ですか」

「愛称はドギー」

「……そう呼べと?」

「あなたが彼のことを何て呼ぼうと、私は構いませんがねぇ」

「……。」

「ドギー。おはよう。今日は紹介したい人が居るんだ」

彼はベッドから起きあがって、頑丈な鉄格子のはめられている小さな窓を眺めていた。
医師が近寄って、顔を覗き込む。

「今日も元気そうだね。ほら、今日から君の先生になるホランド・ノヴァク先生だよ」

促され、部屋の中へ足を踏み入れる。ますますこの部屋の生活感のなさが感じられた。

「よろしく」

振り返らない背中に向かって、声をかける。

「では、私はこれで。ドギー、先生を困らせたらいけないよ」

彼と2人きりになった。とりあえずベッドの近くに備え付けてある椅子に腰掛ける。

「外見るの、楽しいか」

彼が振り向き、目があった。
前もって写真で見ていたが、こうして間近で会ってみると、彼の顔は中性的で写真なんかよりずっと美しかった。

「ホランド・ノヴァクだ。今日から君の担当になった。この病院には来たばかりで、」

「外は見るより行く方がすき」

「……そうか」

「でも行っちゃダメだから、見るだけ」

「外の何が好きなんだ?」

「気持いいから、風がすき」

ゆったりと紡がれるその言葉は、歌っているようにも聞こえる。

「あんたは、オレに、外へ行っていいっていう?」

言葉に詰まり、カルテを持ち直して誤魔化す。

「いいや。言わないよ」

「オレ、外がすきだよ」

「おれも外は好きだ」

そう言うと彼は嬉しかったのか、緩く笑った。





END



心理病棟でホラドギ、みたいな感じで。突然始まって突然終わる。当然続きません。赴任したての医師と患者。