いつも通りの日常だった。部室で、長戸有希は窓際で読書、キョンと朝比奈みくるはドア近くで仲良く話をしていて、 そこへ偶然にもやってきて一瞬の戸惑いの顔の後にやや低い声で、 みくるちゃん着替えましょと言う涼宮ハルヒと、その全部を黙って見守る古泉一樹。何も変わらない、いつも通りの日常。

いつも通り部室を追い出されて、ドアを背にして入室許可を待つ。
手にはどちらも朝比奈みくるの煎れたお茶を持っている。会話はない。
朝比奈みくるの悲鳴と涼宮ハルヒの愉快そうな笑いが漏れ聞こえてくる。
古泉一樹が一口、お茶を飲む。つられてキョンもお茶を飲んだ。会話はない。

唇を噛み締める。ドアの向こうの涼宮ハルヒを思って、 ドアの向こうで神に大人しく従う朝比奈みくるを思って、窓際で読書をする長戸有希を思って、横に立つキョンを思って、 こうしてお茶を飲んでいる自分を思って、古泉一樹は唇を噛み締めた。 どうせなら消してくれ。こんな自分は消してしまって、そのまま忘れて、最初からなかったものにしてほしい。 視線を感じて横を見る。訝しげな顔をしたキョンと目があった。古泉一樹の方が背が高いので自然と見下ろす形になる。 キョンが眉根を寄せたため、気が付く。口端を上げて目を細めて笑う。いつもの、涼宮ハルヒが求める古泉一樹の笑い方。 キョンが知る古泉一樹の笑い方。そして古泉一樹が古泉一樹を演じる時の笑い方。いつまでこうして、いれば。

ああ、神様。僕は疲れました。笑うことも、戦うことも、この重く苦しく黒い気持ちを抱くのも。疲れました。
ざわりと古泉一樹の中で何かが蠢く。神の望むままに生きる自分と、神に選ばれた彼と、神であることに気付かない彼女。 まるで綱渡りをしているようだと古泉一樹は思った。綱の上以外には歩く道はなく、少しでもバランスを崩せば真っ逆様。
ならばいっそ、

「古泉、お前、いま何を考えている?」

「何故?」

「質問に質問で返すな。……お前いま、別人みたいな顔してるぞ」

振り向いてキョンを見下ろした。そして古泉一樹は口角を上げる。
何でもありませんよ。いつも通りの古泉一樹の笑顔がキョンに向けられた。


「キョン!古泉くん!お待たせっ!!」

何も変わらない、いつも通りの日常だった。



『世界が音をたてて落ちてくる』
実際、古泉くんのポジションはとても怖いと思う。BL要素一切なしにしても。
分かりづらいかもしれないけれどこれ一応、ハルヒ→キョン←古泉なんです。