「息を止めます。止めたいんです。だから止めます。 伝えたいことを何も僕は言えないんです。余計なことばかり口から零れて溢れてしまうんです。 それをやめたいんです。一番に言いたいことを言葉にしたいんです。でもできないから、だから息を止めます。 もうやめるんです。やめます。やめたいんです。 どうしたって喉まで競りあがってくるものをどうしてこんなに痛い思いをして辛い気持ちになって 苦しくなりながら押し戻さないといけなのか充分分かっているのに分かりたくなくなってしまったんです。 痛みにかき回されて失われた言葉達をどうにもできないから取り戻せないから言えないのに溢れてくるから、 やめたいんです。やめないといけない。やめるんです。全部全部。やめたいです」

壁を向いたまま動かない背中を、力尽くで振り向かせる。

「これではだめです。だからやめるんです。息を止めるんです。息を、止めます」

ああ想像通りの顔をしていた。 泣いていない。こっちを見ている。瞬きをしない。こちらを見ているようで見ていない。

「分かった」

分かった。古泉、分かった。
俺越しに遠いどこかを見ていた古泉が俺を見た。やっと見た。

「辛いなら、いいんだ。お前がやめたいなら。やめていいと思う。でもやめるなら」

振り向かせた時に掴んだ肩を、情けないことに勇気を出して、必死になって、引き寄せた。 俺はいつだってかっこいい男にはなれないんだ。でもいい。

「俺にくれ」

俺が唯一そいつの前ではかっこよくありたいと思うやつが、俺がかっこよくあることを望んでいないから。 だから俺も、いいんだ。そいつがどうであろうと。いいんだ。

「息ごと俺にくれ。今まで押し戻して飲み込んできた色んなものと一緒に」

お前がやめること全部。
うっすら開いた口にぎゅうと閉じた口をくっ付ける。 離しても開いていたから今度は俺も口を少し開けてからくっつけて、 古泉のやめるもの全部奪うように深く吸い込んで、飲み込んだ。

もう一回。もう一回。
離れた後に俺か古泉か、どっちかが言った。多分どっちも言った。



『転がり落ちた瞬間を覚えてる』
ロー●ンガールに影響受け過ぎである。