月光号に新しいメンバーが増えてから、10年がたった。


「ジェームズ」

呼ばれ慣れない名前で、振り返る。
愛らしい薄紅色に頬を染めた少女のために、腰をかがめて目線を合わせてやる。

「手をつないで」

「いいよ」

差し出された小さな手をそっと握る。手の平にじんわりと、子供の体温が伝わる。
嬉しそうに目を細める少女に、ジェームズと呼ばれた男は、首の後ろをかきながら言いにくそうに、 自分のことはムーンドギーと呼ぶようにと言った。
少女は、そう言われるのには慣れた様子で、ぷい、と顔を背けた。

「いや。みんなと同じは、いや」

「でも、」

「わたしはジェームズの『特別』になりたいの。だから、ジェームズとしか呼ばない」

しがみつくように手を強く握って見上げてくる少女の眼差しに、ジェームズはある人物の瞳の色を思い出した。

「そんなことしなくたって、特別だよ」

( もう、ずっとずっと前から。 )

安心させるように、少女の白く小さな両手を握って、頬笑みかける。

「だから、泣かないで」

母譲りの艶やかな黒髪を撫でる。髪質は父に似ていて、とても柔らかい。
少女は考え込むような顔をしてから、少しだけ泣きそうな表情で、 確かめるように、わたしのことあいしてる? と呟いた。

「愛してるよ」

多分きっと、きみが思っている以上に。

あいしてるよ

「だってきみは、ずっとオレが求めて止まなかった愛の形なんだから」



『シュガーピンクベイビー』                           >>おまけ
サチコさんリクエスト 「ホランドの子供をあやすドギー」 アンケートにご協力ありがとうございました。(小説のタイトルはお好きに換えてくださって結構です。)