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早足で向かった自分たちの部屋。 退屈そうに本を読んでいた仙蔵は、さらに眉を寄せて俺を見た。 手指が冷たくなっていくのが分かって、きっと向こうにも伝わっているだろうと思い、 さらに何かを抑えるために唾を飲み下す。仙蔵。試すように声に出した名前。 「仙蔵」 畳に膝をついて、にじり寄る。 肌の白いやつが薄暗いところにいるとさらに白く見えて、そのまま消えてしまいそうだと、思った。 そうだ。それが始まりだった。 「仙蔵、俺は」 「やっと来たか」 遅いぞ、ばかもの。そう言って笑った。 久しぶりに見る仙蔵の笑う顔は、随分幼いものだった。 なんでお前が、文次郎が、そんな痛そうな顔するんだ。 二人組をくんでいた相手が足を滑らせて怪我をした。 それはあの時の俺には自分自身が傷を負うよりも痛いことだった。 僕は大丈夫だ。 白く小さな体を包帯でさらに白くさせながら、目だけはこちらを睨むように強く向けてくる。 痛みに顔を曇らせて瞼を閉じた仙蔵の布団を握り締めた。 お前は悪くない。僕が勝手に落ちて怪我しただけだ。だからそんな顔をするなよ文次郎。 布団の中の体が震えて、仙蔵が痛みを堪えながら笑ったのが分かった。 ( あの顔だった。あれがきっかけで、俺は仙蔵を、守ろうと思ったのだ。 白い顔をして、さらに白い包帯を巻いて笑うあいつの顔を見た時。守らなければと思ったのだ。 ) 白い顔と艶やかな黒髪が眩しくて、夢中で泳ぐように手を伸ばしながら、 ひらりひらりとかわしていく仙蔵を、そうして追いかけてきたのだ。 追いつきたかった。追いついて、守って、それから、 それから…… 「もう分かっただろう。文次郎」 子供の頃のように穏やかに笑っていた顔から表情が消えた。 「そこが、行き止まりなんだよ」 >>> |