さぁもう終いにしよう。

なぁ、文次郎。

薄暗い部屋の中で仙蔵の白い顔だけが浮いて見える。

「がっかりしたか」

言葉が出てこない文次郎に向けて仙蔵が言った。

「ずっと大事に抱えていたものが偽物だと知って、いまお前はどんな気持ちだ」

「……」

「いいさ。答えなくていい。あまり趣味良い質問じゃないのはわかっている。 ただ、お前は馬鹿正直なくせに、どうして変なところで曲っているんだろうなぁ。 私はそれがずっと不思議で仕方なかったよ。 だからいけなかったんだ、それがどこまでのものなのか見てみようと思ってしまったから」

……がっかりしたか。また仙蔵が言った。

「私はこんな人間さ、お前はそんな人間さ」

仙蔵は手に持っていた読み物をぱたんと閉じて体をこちらに向けた。

「もう私を透してあいつを見るのは止めろ。 私の方を向いて好きだなんだ言う癖に、目はどこか遠くを見ている。それがどれだけ気持ちの悪いことか。 お前がずっと同じに見ていたものは、全く似ても似つかない別物だったんだ」

教科は出来てもそんなことも分からないから、いつまでたっても大馬鹿者のままなんだ。

「これ以上私にくだらんことを言わせるな」

興味をなくしたように目を逸らされる。

「仙蔵」

「なんだ」

「最後にいいか」

「言ってみろ」

「一度だけ、触れてもいいか」

「……いいだろう」

白い首を晒すように顎を背ける仙蔵に手を伸ばして、触れた先。

「ありがとう。すまん、行ってくる」

この世で何より美しいと思っていたその髪を指先でなぞるように撫でてから、文次郎はすっくと立ち上がる。

「行って来い、大馬鹿者」

久しぶりに見た仙蔵の笑う顔は、まだお互いの背丈が今の半分だった頃のものと何も変わらなかった。


駆けられるだけ速く足を動かして向かう。未だあの声は遠い。


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